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厨房排水処理システムについて
佐竹 純一郎 (一社)浄化槽システム協会講師団 (月刊浄化槽 2021年11月号)
1. はじめに
2. システムの概要と原理
3. 実施例
4. まとめ
1.はじめに

 弊社を含めた浄化槽メーカーにとって下水道の普及は浄化槽が売れなくなる地域の拡大であり、売上の減少に直接つながる深刻な問題である。とはいえ浄化槽関連の先生方がご報告されているように下水道が向いている地域はほとんど整備を終えており、これまで通りの国の財政支出が続くのであれば、小さな地方都市で下水道事業をこれから実施するところは少ないと思われ、今後急激に浄化槽地域が減っていくことはないと考えられる。しかしながら、一旦下水道が普及した地域では二度と浄化槽地域になる可能性はなく、市場がすでにかなり減っているのは事実である。そういった中で排水処理事業を伸ばしていくには下水道地域でも売れる「除害処理装置」の販売が一つの大きな要素になると考えられる。
 下水道への排出基準は多くの地域でBODとSSが600mg/L未満、n-Hexが30mg/L以下が採用されている。除害処理装置は下水放流水の水質を上記の基準値以下にするための装置である。弊社では主にショッピングセンターを中心にした厨房排水の除害処理装置の販売に注目しているのであるが、厨房排水はこの基準値をオーバーしているのが常である。BODとSSについては多くの場合除去率が50%程度で基準値をクリアできるので容易に処理可能なのであるが、n-Hexについては90%近い除去率が必要になるケースが多く、その達成は困難となっている。
 言うまでもなく油は分解が難しい物質である。BODは多くの菌が分解可能であるが、油を分解できるのはリパーゼという酵素を分泌する菌であると言われている。しかし、そのようなリパーゼ分泌菌(以下、油分解菌)といえども、BOD酸化菌のBOD分解速度に比べると、その分解速度は遅いものである。したがって、BOD分解の速度に合わせて設計してしまうと、油の分解には滞留時間が足りず、ほとんど分解できないままで流出してしまうことになる。油を分解するのに必要な設計をしてしまうと、非常に長い滞留時間が必要になってしまう。また、せっかく下水道があるのに、そのような負荷で処理するとBOD等がかなり除去され、下水道にきれいな水を流すという非合理的な処理になりかねない。
 そこで、厨房排水処理に対して考えられる理想的なシステムは、BODやSSの処理は多少いい加減で良いから、油のみを選択的に処理してくれる装置である。これを叶えるために、これまで採られてきたのが、油分解菌を添加するシステムである。油分解能力に優れた菌を選択し、それを槽内外の培養槽で増やしてから添加する処理方式である。これは一見取り組みやすい方式なのであるが、もともと土着でない菌を添加しても定着しなかったり、菌の濃度をそれほど高くできないために効果が小さかったり、BODよりも相対的に少ない油分を処理してもBOD酸化菌との競合に負けてしまったりと、なかなか安定した性能を発揮させるのが難しいものである。弊社でも以前に使用していたシステムでは、同様な原因で性能を発揮させるに至らなかったことがあった。
 弊社では、このたび、油分解菌を加えるシステムではなく、土着の油分解菌を自然に育種して油を効率的に処理し、かつ、高負荷・コンパクトに収まる除害処理装置を開発し、販売するに至ったので、その特徴について紹介したい。
 
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2.システムの概要と原理

図-1 システムのフロー

  図-1に弊社のシステムの概要を示す。一般的に除害処理装置でよく使われる担体流動槽があり、その後段に沈殿槽を設置し、沈降した汚泥を油分解槽というばっ気槽に返送し、油分解槽から担体流動槽に汚泥が返送されるという循環を繰り返すシステムとなっている。いわゆるバイオソープション法と同様なフローとなっている。担体流動槽では樹脂製の担体がばっ気によって流動しており、担体に付着した生物膜が流入水のBOD、SS、n-Hexを分解していく。ただし、前述のように、この槽は高負荷であるためにn-Hexを分解しきるには至らない。n-Hexは油分解槽から返送される活性汚泥によって吸着するだけにしているのがミソである。活性汚泥は油分の吸着能力に優れており、わずかな量でも油分を十分に吸着してくれるので、返送汚泥量も少なくて済む。活性汚泥濃度が低いために、沈殿槽での分離も容易で、通常の活性汚泥法のような高度な管理技術がなくても分離性を高く維持できる。この特徴は実際に実験・実運転を通して想定以上の効果を挙げている。沈殿槽で分離した汚泥は油分解槽に送られるが、この返送汚泥量は流入水量に対して10%以下と極めて少ない量で済む。このことによって、例えば油分解槽の滞留時間を2日間で設計したとしても、担体流動槽の大きさと大差ない容量で済んでしまうのである。油分解槽では、コンパクトにもかかわらず、長い滞留時間を確保できるため、活性汚泥が油を十分に分解し、また、新たに油を吸着できる能力を回復して担体流動槽へ返送され、油を吸着するサイクルが繰り返される。担体流動槽では主にBOD酸化菌が働いてBODを下げるため、油分解槽ではBODが少なく、油分リッチの環境が整えられて、油分解菌が自然に育種され有効な油分解能力を発揮することになる。
 一方、ほかのシステムと同様に、このシステムでも汚泥が徐々に増えていくため、それに見合う引き抜きが必要になる。余剰汚泥については、油分解槽から調質槽へ移送し、下水道の排出基準値をクリアさせながら下水道へ流すシステムとしている。これは、沈殿槽の処理水が活性汚泥を使っているためにかなりきれいで、余剰汚泥を混ぜても十分に下水道基準を満たすことができるためである。これによって、見かけ上は汚泥発生ゼロが達成できる。安全に下水道基準を満たすために、調質槽にSS計を設置してコントロールすることも可能である。油分解槽の汚泥については、SSに対するn-Hexの含有率が極めて低く、また、BODもSSより低めとなる。このため、SS値のみを制御すれば水質を満たすので、制御しやすい特徴もある。
 
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3.実施例

 K食品という惣菜工場での実施例を以下に示す。表1に設計条件を示す。BODに対してn-Hexの非常に高い現場である。表2に各槽の設計諸元を示す。生物処理槽のBOD負荷、n-Hex負荷ともに非常に高い条件で設計されている。

表1 設計条件
    流入水質 放流水質 除去率
BOD [mg/L] 1400 600 57%
SS [mg/L] 500 600
n-Hex [mg/L] 500 30 94%
pH [−] 4.7 5.0〜9.0
 
表2 各槽の設計諸元
  容量 滞留時間 BOD負荷 n-Hex負荷
[m3] [h] [kg/m3・日]
流量調整槽 203 16.2
担体流動槽 101 8.1 4.2 1.5
沈殿槽 39.5 3.2
油分解槽 67.4 5.4
生物処理槽※ 168.4 13.5 2.5 0.9
※担体流動槽+油分解槽

 図2に分析結果をまとめたグラフを示す。実際の流入水はかなり変動があるが、設計値を越えているような流入水に対しても下水道基準をクリアして排出できている。SSは余剰汚泥の引き抜き量が少し多くてギリギリのところがあるので、運転条件をもう少し整えて運転する必要がある。n-Hexは余裕をもってクリアできている。このような運転の結果、汚泥の引き抜きはゼロを維持しており、ランニングコストの低減にも寄与できている。

図2 K食品の処理水質例
 
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4.まとめ

 このようなシステムで特許を取得して営業を行っている。惣菜工場での実施例にあるように、今後はショッピングセンターの厨房排水よりもより高い流入BODやn-Hexの排水でも汚泥発生ゼロを達成できるようなシステムの開発を目指す予定である。
 
 
((株)ダイキアクシス 開発部)
 
 
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