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RI(放射性同位元素)排水処理と浄化槽
小関 聡恵 (一社)浄化槽システム協会講師団 (月刊浄化槽 2020年9月号)
1. はじめに
2. RI(放射性同位元素)とは
3. RIを取り巻く法令
4. RI排水設備について
5. 浄化槽の役割
6. RI排水処理フロー
7. 浄化槽の設置
8. 余剰汚泥の処分
9. おわりに
1.はじめに

 当社は昭和37年に山形県内で初の浄化槽工事業を営む会社として創業した。昭和40年代に入り、大型合併処理浄化槽や高度化浄化槽(関東以北で初の処理水BOD 10r/L以下)、特殊排水処理施設の分野も手掛け始めた。特殊排水には重金属排水や化学実験排水、病院排水(RI(放射性同位元素)排水、人工透析排水、検査系排水、感染系排水)などがある。その中のRI排水処理設備の工事・メンテナンスを行う中で、昭和50年代半ばからRIモニタリングシステムや日本国内に数か所しかない重粒子線がん治療施設における放射線安全管理設備の工事・メンテナンスまで幅を広げ、現在に至る。
 実はRI排水処理設備の中で浄化槽が活躍している。下水道が普及している地域でも使用されている浄化槽がどんな位置づけで活躍しているか述べたいと思う。
 
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2.RI(放射性同位元素)とは

 2011年に起こった東日本大震災後、国内で注目された「放射線」「放射能」「放射性物質」であるが、地球が誕生する前から自然界に存在する物質であった。最初に発見された放射線は、検査などでよく耳にするドイツ人のレントゲンにより1895年、今から125年前に発見されたX線である。X線の発見により、医療の分野での利用も急速に進み、現在は悪性腫瘍の検査や治療に使用されている訳だが、使用された当初は放射線の人体に対する影響への認識がなく、大量のX線が照射された後、皮膚炎や脱毛、皮膚がんなど多くの放射線障害が発生した。
 電圧を加えることで発生するX線とは異なり、外部から力を与えずとも時間とともに自ら放射線として放出するのが放射性同位元素(ラジオアイソトープ(Radioisotope、略してRI))である。その原理は、不安定な原子核が安定した別の原子核に変わるときに余分なエネルギーを放射線として放出する。
 現在、病院ではRI検査(核医学検査)や治療などに使用されている。震災で問題になっている137Csの半減期30.16年などとは異なり、病院で主に使用されている核種は1日未満のものなど短いものが多い。
 
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3.RIを取り巻く法令

  先述した放射線障害を防止するため、各国で様々な法令が定められている。日本の主な法令には「放射性同位元素等の規制に関する法律」「医療法」「電離放射線障害防止規則」などがあり、RIを含んだ放射性医薬品の使用時は、この法令に従って運用しなければならない。
 排水設備については、放射性同位元素等の規則に関する法律施行規則により、次の通り定められている。
 液状放射性同位元素等を浄化し、又は排水する場合には、次に定めるところにより、排水設備を設けること。(施行規則第14条の11第1項第5号)

 排水設備は、次のいずれかに該当するものであること。
  (1) 排水口における排液中の放射性同位元素の濃度を原子力規制委員会が定める濃度限度以下とする能力を有すること。
(2) 排水監視設備を設けて排水中の放射性同位元素の濃度を監視することにより、事業所等の境界における排水中の放射性同位元素の濃度を原子力規制委員会が定める濃度限度以下とする能力を有すること。
(3) (1)又は(2)の能力を有する排水設備を設けることが著しく困難な場合にあつては、排水設備が事業所等の境界の外における線量を原子力規制委員会が定める線量限度以下とする能力を有することについて、原子力規制委員会の承認を受けていること。
 排水設備は、排液が漏れにくい構造とし、排液が浸透しにくく、かつ、腐食しにくい材料を用いること。
 排水浄化槽※は、排液を採取することができる構造又は排液中における放射性同位元素の濃度を測定することができる構造とし、その出口には、排液の流出を調整する装置を設け、かつ、その上部の開口部は、蓋のできる構造とし、又はその周囲に柵その他の人がみだりに立ち入らないようにするための施設を設けること。
※排水浄化槽とは貯留槽、希釈槽、沈殿槽、ろ過槽等のこと。
 
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4.RI排水設備について

 RIを使用する場合は「RI管理区域」を定めなければならない。RI検査・治療を行っている病院の場合、事業所により異なるが貯蔵室、廃棄物保管室、作業室、汚染検査室、トイレ等が含まれている。
 病院のRI排水処理設備に流入してくる排水は、RI管理区域から出る排水となる。なぜならば、RIは自ら放射線を放出するからだ。トイレが含まれる理由は、RI検査・治療を行う場合、RIを含んだ放射性医薬品を患者に内服や注射で投与することにより、排泄物にRIが含まれていることにある。ここで浄化槽の出番となる。
 
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5.浄化槽の役割

図1 γ線水モニタ
 公共下水道等に排水する場合、排水中に含まれる放射性同位元素の濃度を原子力規制委員会が定める濃度限度以下になってから初めて放流できるが、その濃度測定方法のひとつに「水モニタ」と呼ばれる放射線モニタリング機器により行う方法がある。水モニタは直接排水をサンプリングし測定しているため、固形物や夾雑物を除去しなければならない。この浄化槽は、汚水を浄化して放流することが目的ではなく、前処理槽としての目的という認識の方があっているだろう。下水道除害施設であるRI排水処理設備に設置された浄化槽は単位装置としての役割と働きを担っている。
 したがって通常使用している浄化槽とは異なる部分がある。
 一つは建築基準法で規定され建築確認申請に添付する「浄化槽設置調書」及び建築確認申請が不要で浄化槽のみを設置する場合に保健所へ届ける「浄化槽設置届出書」の提出が不要である点である。
核種 半減期 排水基準
99mTc 6.01hr 4×101 Bq/cm3
123I 13.2hr 4×100 Bq/cm3
99Mo 2.74日 1×100 Bq/cm3
223Ra 11.4日 5×10-3 Bq/cm3
表2 半減期と排水基準
 もう一つは下水道地区である場合、塩素消毒は不要である点だ。RI排水設備から放流する前に「水モニタ」で濃度を測定し、原子力規制委員会が定める濃度限度以下であることを確認した後、病院内の他排水管に合流、下水道へ放流する。その後の公共又は流域下水道終末処理場(浄化センター)で標準活性汚泥法等により処理を行うため、その活性汚泥に悪影響を及ぼすためだ。このことを知らず、通常の浄化槽と同じようなメンテナンスを行った業者が病院の技師から大目玉を食らったということが過去にあった。よって、浄化槽や排水設備のメンテナンスを行うために立ち入る場合は、RIについての十分な知識や経験を有する者が作業を行う必要がある。当社ではメンテナンスの際、防護服の着用、個人の被ばく量を積算する線量計の携帯を行い、作業員の安全管理を行っている。
 尚、患者に放射性医薬品を投与しない研究機関などの事業所もあるため、RI管理区域にトイレが含まれていないなどから、RI排水設備には必ずしも浄化槽があるとは限らない。また、浄化槽含め、その他槽に関する容量はRIの使用核種や数量を基に、専門知識がある者が計算した上に設計する。
 
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6.RI排水処理フロー

 まかなRI排水処理フローを図3の通り示す。
@ RI管理区域から流れてくる排水は浄化槽へ流入
A 浄化槽で固形物を除去した排水は貯留槽へ流入し、一時貯留(ここでの貯留時間は使用核種、数量により異なる)
B 貯留日数を超えた排水を希釈槽へ移送。
C 放射能濃度測定を行い原子力規制委員会が定める濃度限度以下になっていることを確認し、放流。濃度限度を超えている場合は、希釈後、同様の測定を行う。

図3 RI排水処理フロー
 
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7.浄化槽の設置

 使用される浄化槽は私の経験上ではFRP製浄化槽の5人槽×2基が多い。FRP製以外にもDCPD製も使用されている。
 近年、事故事例としてRI排水設備から管理区域外へRI排水が漏水しているという事例が増えている。RI排水設備の老朽化が主な原因だ。昔設置した浄化槽やその周りの配管は埋設されていることが多く、地震や樹木の根の成長に伴う亀裂なども原因の一つとなっており、周辺の土壌などに汚染をもたらす。
 現在では6面点検が可能なように、RI排水処理室内等に地上設置型として浄化槽を設置している。定期的に亀裂が入っていないか、水漏れはないかなど確認できるため、漏洩防止に努めることができる。仮に漏洩した場合、関係省庁への通報や漏洩したと想定される場所の汚染検査、検査結果により除染作業などを行わなければならない。ただし、浄化槽の構造は土圧を含めた設計となっているため、FRPを厚めにするよう製作時に注意が必要だ。実際に通常製作し、導入した浄化槽に亀裂が入り始めており、補修が必要なところもあるいう情報も耳に入っている。
図4 RI標識
 排水処理設備がRIに該当するか否かの判断に役立つ標識が施行規則第14条の11第1項第10号で定まっている。この標識があるものはRI排水設備であることを示しているため、メンテナンス等で現場へ行ったときは注目してみてほしい。この三つ葉マークがあれば、排水設備だけでなく、放射性同位元素が使用されている施設だということと理解し、むやみに立入らないようにすべきだろう。
 
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8.余剰汚泥の処分

 RI排水処理で使用されている浄化槽は下水道区域内で使用されているため、下水道法で定められている下水道終末処理場(浄化センター)、医療法の基に余剰汚泥の処分を行う必要がある。
 以前、当社で余剰汚泥の処分を行った際は、下水道担当課などと密に打合せを行った上で、浄化槽内の余剰汚泥をバキューム車で汲み取り、敷地内公共桝へ放流した。作業にあたり浄化槽内の酸素・硫化水素濃度測定はじめ、放射線量測定や放射能濃度測定などを行い、安全確認の上で、作業を実施した。
 
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9.おわりに
 
  放射線と聞くと怖がる人も多くいると思うが、不要な被ばくや汚染を防ぐために法令などの様々な決まりで守られている。正しい知識を持ち、正しく運用していれば通常怖いものではない。むしろ、医療だけでなく、農業、工業など幅広い分野で貢献している放射線は私たちの生活を豊かにさせてくれているものだと私は思う。そのためには放射線取扱従事者だけでなく、RI排水処理設備に関わるひとりひとりが正しい知識を持ち、多くの人たちへの被ばくをなくすため、工事やメンテナンスを行うことが重要である。
 
 
(東北ナノテック株式会社 環境プラント部 工事課 小関 聡恵)
 
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