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浄化槽の海外ビジネス展開について
北井 良人 株式会社クボタ (月刊浄化槽 2011年 8月号)
1.はじめに
2.株式会社クボタの海外事業展開の紹介
3.主要東南アジア各国の経済状況
4.東南アジア主要各国の生活排水水質規制状況
5.企業の過去の国際協力の例
6.各国共通の問題点
7.ビジネス展開の概要
8.今後の課題と抱負
 
1.はじめに

  人口の減少や排水衛生処理率の向上とともに国内の浄化槽市場は年々縮小している。
  一方で、分散型排水処理施設としての浄化槽は経済的で効率的な施設として、経済成長が著しい東南アジア等の地域でますます必要性が増していると考えられる。各国における急激な都市化による人口増加で水系の環境汚染は著しく、中国を除いていわゆる下水道施設へのインフラ投資が予算不足で遅れているのが現実である。ここでは、潟Nボタの海外事業展開の紹介と浄化槽の一般的な海外ビジネス展開の現状と課題について私見を交え報告する。
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2.株式会社クボタの海外事業展開の紹介

  弊社では鉄管、バルブ、ポンプ、膜、浄化槽、上下水プラントなどの水関連製品及び農業機械、エンジン、建設機械、自販機など、食糧、水、環境の3つの分野を中心に、人の暮らしと社会に貢献する様々な製品を日本並びに海外へ送り出している。図-1に製品群を示す。この10年で海外売上は2分の1を超えるまでになり、特にアジアでの展開を重視している。本年は、水事業関連で、中国に以下の3社を設立した。1社目は合弁会社の久保田国禎環保工程科技(安徽)有限公司 (くぼたこくていかんぽこうていかぎ(あんき)ゆうげんこうし)で、MBR(膜)処理施設のエンジニアリング及び膜装置の製造販売を行う。2社目は独資の久保田環保科技(上海)有限公司 (くぼたかんぽかぎ(しゃんはい)ゆうげんこうし)で、産業排水再利用、農村部環境対策向けエンジニアリング及び浄化槽などの機器の販売を行う。3番目は当社初の地域統括会社「久保田(中国)投資有限公司」を設立、地域戦略の立案・実行と現地事業会社への経営支援を強化し、クボタグループの総合力を発揮する体制を構築し、アジアでの事業強化を図っている。
図-1 クボタの水処理関連製品
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.主要東南アジア各国の経済状況

  2008年秋からのリーマンショック以降先進国各国は不況となる一方、中国や主要アジア各国は高い経済成長率を維持し、世界経済を牽引している。表-1は中国と主要アジア4カ国の人口、一人当たりGDP,成長率などを示す。特に中国、ベトナム、インドネシアは6%を超える成長を維持している。家計可処分所得が年間5000ドルを超える人口が急増しており、今後も購買力の高い人口の層が増えると予測されている。日本でも池田隼人内閣による所得倍増計画での高度経済成長期に3C(カラーTV、クーラー、カー)が三種の神器として普及した後に、インフラである下水道や浄化槽が普及してきた。従って、高度成長を継続している各国において、排水処理施設の普及は以前よりも増して経済的に実現性の高いものとなっていると考えられる。

表-1 中国と東南アジア主要4カ国の人口と一人当たりGDP
国名 人口/万人 一人当たり
GDPドル
成長率(%) 賃金
(月給)ドル
 インドネシア 22564 2247 6〜7 147.7
 フィリピン 8871 1866 3〜4 295.8
 ベトナム 8517 1041 6〜7 104
 タイ 6604 4187 5〜6 230.6
 中国 132466 3292 約10 379.1
(外務省 2010年)
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4.東南アジア主要各国の生活排水水質規制状況

   表-2に各国の生活排水の水質規制の例を示す。特徴的なのは、海洋国のフィリピンはBOD50mg/Lなどで緩い放流水質基準であるのに対して、ベトナムの生活排水基準や中国の下水処理場の排水基準ではアンモニア規制が厳しいことである。これは既に都市部や人口密集地では河川、地下水のアンモニア汚染問題が著しいことから取られている処置であろうと推察される。しかしながら、農村地域などで流域の水量が多い地域でも一律にアンモニア規制が必要かどうかは疑問の残るところである。その点、中国での農村地域での排水規制が今後どのようになるかが注目されるところである。現状のセプテイックタンク処理が普及している一般的な地域でアンモニア性N5mg/L以下を守るには硝化をほぼ完全に行う高度処理浄化槽の設置が必要になり、設備費、運転費が一般タイプより高くなる。従って、設置場所に限度のある都市近郊では高度処理浄化槽、広い場所が確保できる農村域では、中国での適用例が多く運転費が少なくて済む生態工学を活用した方式が組み合わされる可能性が高い。

表-2 各国の生活排水水質規制例
  C:ベトナム生活
排水基準(QCVN14:
2008/BTNMT)
中国・都市下水処
理場汚染物質排出
基準(GB 18918-2002)
フィリピン(DENR Order No.35 1990) インドネシア
(2005年DKIジャカルタ知事条例NO.122)
  A B 1級
基準
A
1級
基準
B
2級

3級
基準
クラスC 個人
家庭
Communal
BOD 30 50 10 20 30 60 50 75 50
CODcr - - 50 60 100 120 100 100 80
TSS 50 100 10 20 30 50 70 50 50
NH4-N 5 10 5(8) 8(15) 25(30) - - 10 10
NO3-N 30 50 - - - - - - -
T-N - - 15 20 - - - - -
T-P 6 10 0.5 1 3 3 - - -
動植物油 10 20 1 3 5 20 5 10 20
大腸菌群数 3000 5000 1000 10000 10000 - 10000 - -
pH 5.0〜9.0 5.0〜9.0 6〜9 6.5〜9.0 6〜9 6〜9
備考 Cmax=C x k (用途
により規模小k=1.2 、
規模大k=1.0)、
A:生活用水源、
B:その他
農村域への適用は
不明確
     
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5.企業の過去の国際協力の例

  浄化槽企業による海外技術移転や調査は過去に何度も行われてきた。(表-3参照)しかしながら、当時当該国の経済的事情などからなかなか普及してこなかったのが現実である。パターンとしては@企業進出、A技術供与、B製品販売(輸出)、C技術者養成、D資材、部品調達、E国、団体等への調査協力などがある。
表-3 企業による国際協力の例
企業 対 象 国 内            容
D社 中国 大連市に独資企業工場建設。浄化槽部品の製造、日本へ輸出。(1991年)
Y社 マレーシア 合弁会社設立。技術供与。日本での技術者養成。(1989年)
B社 マレーシア
インドネシア
事務所開設。現地企業に技術供与。(1990年)
工場建設。部品製造。(1995年)
H社 中国 上海環境保護局に浄化槽(300人槽)寄贈。(1992年)
浄化槽FRP部品の一部を中国FRPメーカーに生産委託(1994年)
DS社 インドネシア 現地企業による部品製造。(1989年)
M社 タイ 現地企業に技術供与。(1983年)
(21世紀の浄化槽ビジョン(社)型式浄化槽協会1996年より)

  企業進出例の過去の中国での問題点は、メンテナンス説明をしていてもしてくれず、消耗品切れでもクレームになってしまい、メーカーの責任になることが多いということがあった。1)
  輸出例として海外での浄化槽工事中の写真を写真-1に示す。これまでもっとも継続的に行われてきたのはD日本の浄化槽用の資材、部品調達である。輸入部品の例を写真-2に示す。

写真-1 海外浄化槽工事中の例

写真-2 海外生産部品(消毒槽) (ろ材受けの例)

しかし、これからは@〜Eのミックスが必要となると考えられる。
  筆者は1993年に厚生省、(社)国際厚生事業団(JICWELS)の浄化槽技術移転の可能性調査(第2回目)にて北尾先生を団長にした浄化槽工業会のタイの調査に参加させていただいた。その折、現地浄化槽製造企業であるPremier Product社(以下PP社)を訪問した。PP社へは日本のM社が単独浄化槽を技術供与し、その槽でチェンマイ大学でのタイでの適用試験も行われたと聞いた。当時月産700台の浄化槽(内嫌気単独槽が7〜9割)を販売しており、タイでのシェア70%,年間浄化槽の売上は15〜20億円と聞いた。製法はスプレーアップ、ハンドレイアップ、FW機械成形であった。当時で沈分嫌気ろ床の単独槽(BOD90)が3.5〜4万円、分離ばっ気(BOD20)が6.5万円、PP社が開発した沈分嫌気ろ床の合併槽(BOD90)が5万円、沈分嫌気ろ床接触ばっ気型が7.5〜9万円であった。18年前であるが、当時バンコクでの最低賃金が約600円/日、タイの大卒初任給が約5万円、バンコク中心部から1時間くらいの建売住宅が1000万円程度であった。価格が高いFRP浄化槽にもかかわらず、なぜ売れるかの質問にPP社の返答は以下の通りであった。
 @ 役所や一般住民へのPR
 A 設計織り込み活動の徹底
 B マイホームを建てる人の環境意識が高く、実際は家の価格の一部なので気にならない
 C 開発業者にとって集中処理施設と比較して土地の確保の問題が無い(戸別)
 D 製造、販売、維持管理業を一貫して行っており信頼を得やすい
  日本のメーカーが浄化槽の海外展開を図る際にも現在でも十分参考になる内容と考える。また、タイでは1990年にばっ気式浄化槽も法的に許可され、1992年末からは20戸以上のホームタウン開発では個別または集中の浄化槽の設置の義務化の法律が施行されたと聞いた。2) 従って、その後浄化槽の市場も増加してきたものと推定される。PP社では工場がきれいであり、廃材を出さない思想を実行しており環境意識の高い会社であると感じた。その後2009年に弊社のトラクターのタイ工場に出張した際にPP社のその後を調査すると、既に大型のFRP管体の活性汚泥法浄化槽の生産も行っており、依然トップメーカーであると現地の関連業者より聞いた。
  インドネシアやベトナムの浄化槽メーカーが育っていない理由は、やはりタイのような法規制に加え購買力、技術、の3点がそろっていなかったからと考えられる。
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6.各国共通の問題点

  浄化槽普及を妨げる各国の共通の問題点は以下があげられる。
 @行政の予算が不足している。
 Aメンテナンス費用が払えない。
 B適正な法規制が整っていない。
 B製造、工事、メンテナンスの業界がない。
 そもそも上下水道は都市の産物であり、公共施設として建設されてきた。しかし、浄化槽は個人下水道との位置づけで私有地の中に設置されることから公的関与がし難かったが、日本では旧厚生省の合併浄化槽補助金事業という画期的なシステムのスタートで飛躍的に設置普及が促進されてきた。浄化槽法も大きな役目を担ってきた。従って、これらの財政的法的しくみづくりが、諸外国でも普及促進のキーとなることは間違いない。一方、中大規模浄化槽では法律による規制が最も効果があると考えられる。
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7.ビジネス展開の概要

  海外での浄化槽のビジネス展開を行う際に必要なポイントを以下にまとめてみる。
1) 現地化
  現地での独資会社または合弁会社の設立により現地生産と販売を行うことがスタートとなる。当然ながら市場性を十分把握することが重要となる。
2) 製品技術開発
 
@ 現地適格型浄化槽の開発
    技術内容の開発で最も重要なことは、現地で必要とされる仕様を盛り込んだ製品とすることである。そのためには、現地の研究機関との共同開発も積極的に行うことなども重要となる。これまでは、単なる輸出仕様の現地生産によるコストダウンでも良かったかもしれないが、これからは現地のメーカーとの価格・仕様の両面での競合になるので、気候風土や使用条件に合わせた製品で納得していただける特色を盛り込んだ製品の開発が重要で、現地での十分な実証確認も必要となる。例えば水温が高くトイレットペーパーをあまり使用しない習慣のインドネシアなどでは汚泥発生量が少ないので、清掃期間の長い設計や槽そのものの小型化が可能となる。
A シンプルデザインについて
    日本の技術はとかく携帯電話のガラパゴス化といわれたように、便利で複雑化の道を歩んできた。しかし、アジアで様々な人に使っていただく商品はだれもが安全で使い易く、修理し易い商品が望まれる。いわゆるユニバーサルデザインの設計思想が今後の浄化槽の開発にも必要と考える。写真-3に海外での制御盤の例を示す。判り易い各種異常表示に加え、感電注意ラベルがある。
  浄化槽そのものでは、これまでの反省も込めて、少し大きくてもシンプルでメンテナンスし易く、性能が安定する方法が望まれる。

写真-3 海外の浄化槽のポンプ槽制御盤例
B 知的財産保護
    ノウハウをブラックボックス化し易い家電製品などと異なり、浄化槽は比較的に見ることで模倣がし易い製品である。活性汚泥法と生物膜法の基本技術があれば設計は容易にできる。すなわち差別化をいかに図れるかが日本メーカーの生き残りのポイントとなる。そこで、Made in Japanのブランドは金型技術、成形技術などの海外移転に伴い、徐々に弱くなっていくことを見越した、技術開発、特許戦略が必要になる。中国では実用新案や特許の出願件数が毎年2割程度は増加しており、2007年1年間で水,廃水、下水、汚泥処理技術に関する実用新案、特許が合計3119件出願されている。3) 特徴的なのはその出願の46%が中国の実用新案で多く、特許は47%である。海外からの出願は7%(210件)であり、そのほとんどが特許である。「実用新案とは、製品の形状、構造又はその組合せについてなされた実用に適した新しい技術方案をいう。」規定はほとんど日本と同様であり、日本では活用が少なくなっているが、中国では活用されているので注意が必要である。また、意匠も多く出されており、本体の形状や流動担体やろ材の形状は数多くあり、注意が必要である。また、さまざまな商品でマスコミでも話題になっているが、商標登録も販売を行う場合は早目に行っておくことが重要である。なお、弊社の型式と同じ名称の現地の小型浄化槽がすでに今年の上海の展示会であったのには驚きであった。
3) 技術者養成
    日本では企業の公害防止管理者制度や環境計量士による分析機関の充実が素地としてある上に、浄化槽法の定める浄化槽設備士、浄化槽管理士による資格のある技術者により製品を支えていただいている。適正な施工やメンテナンスのための教育指導や資格制度の活用はきわめて重要である。浄化槽が普及し始めた国では、各国の言語による一定の講習ハンドブックを相手側行政関連機関との共同で作成し、それを活用した一定レベルの講習会を実施するのも普及促進のための一案である。
4) 関連機関との海外展開協力
    各国の国、地方行政の建設部門、環境管理行政部門とのコンタクトにより、下水道と分散処理システムのバランスの良い都市計画を説得すべきである。そのためには、日本の浄化槽計画マニュアルの当該国における適用研究、FSなどもコンサルタントの協力により積極的に行われることが望ましい。その際、特に重要なのは日本でも行われているように、下水道地域、農業集落排水処理地域、浄化槽地域などのMAP作りを弾力的に見直し、経済性を長期間で評価することなどが重要となる。
  また、日本の各大学や研究機関でも水環境改善にかかわる共同研究をアジア各国と行い交流を継続しているところは多い。そのような機関との連携をとり、同じ目標に向かって情報を共有し、協力することは重要と考える。
5) 維持管理、清掃業、汚泥処理
    当面製品保証の観点からもメーカーによる維持管理が必要と考えられる。しかし、汚泥処理を含めた場合、公的機関が行っている場合がほとんどであり、トータルとして設置者の費用負担の軽減が望まれる。
  汚泥処理は、農村地域では農地還元が最も望ましい。以前チェンマイ大学病院の活性汚泥法排水処理場で見学させていただいた余剰汚泥の天日乾燥装置は印象的だった。農家の方々が引き取りに来ているとのことだった。しかし、都市近郊では増大する浄化槽汚泥に対する汚泥処理場の公的機関による計画的設置が重要となる。これまでセプテイックタンク汚泥の処理を行ってきた処理場では汚泥の質、量の変化が予測されるので、行政機関との調整が必要となる。汚泥処理施設のODA活用による計画の提案も対応策となる。
6) 需要の創出活動
    浄化槽の販売活動では、さまざまな以下のような方法が考えられる。販売ルートの確立。現地有力設計会社への織り込み活動。モデル事業や展示会での官民へのPR。これらの活動を有機的に組み合わせて、認知度を徐々に上げることである。
  公的機関や協力会社には浄化槽による長期間にわたる雇用創出や経済効果のPRも必要と考える。
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8.今後の課題と抱負

  分散型排水処理システムの海外展開における課題はまだまだ多い。@しくみつくりの面では財政面や法規制に加え、設置、維持管理の土台が重要なため、メーカーだけでなく、日本のJICAや環境省はじめ関連行政機関の協力の元で今後も活動が必要である。A製品開発ではローコスト、高性能、省エネ製品を現地の要求に合わせた仕様で準備すること。B人材育成面では施工、維持管理の専門員のみならず、現地での開発パートナーも育成することなどである。
  これらの課題を実行するため、関係機関とタグを組みアジアのより良い水環境作りのために今後とも尽力していきたい。
 
文献
1) 高岡慎也 月刊浄化槽 2006年9 月No.365 P.32
2) タイ国小規模生活排水処理システム技術移転調査(報告書)平成5年3月厚生省、(社)国際厚生事業団、浄化槽工業会
3) 中国における実用新案制度の利用状況調査 ジェトロ北京センター 2009年3月
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